研究概要 |
生後8ないし12週の雄Sprague Dawleyラシトの3本の上強膜静脈を焼灼し、高眼圧モデルを作製した。ウレタン麻酔下で経時的に眼圧をトノペンで測定し、眼圧上昇を確認した。処置後、3,7,14,28,60日目に、ラットを安楽死させ、眼球を摘出して、網膜伸展標本またはクライオスタット切片を作製した。一群では,TUNEL(terminal dUTP nick end labeling)染色を行ってアポトーシス細胞の出現頻度を、他群では,抗GFAP抗体ないし抗リン酸化Akt特異的抗体を用いた蛍光免疫染色を行った。前者にて網膜神経節細胞のアポトーシスの量的変化をカウントし、後者にてAkt活性変化を網膜内の局在分布の変化として捉えた。伸展標本にて障害の水平的な分布を、薄切切片にて障害の網膜層別・層間の拡がりを検討した。さらに一部の網膜では上記抗体を用いてウエスタンブロットを行った.上強膜静脈焼灼後,3日で眼圧は46.5±15.2mmHgと上昇し,経時的に低下したが,2ヶ月後も24.7±8.9mmHgと,対照眼(15.1±7.3)に比べ有意に高値を維持した。眼圧上昇1週間、1ヶ月、2ヶ月後にそれぞれ、102.8±33.6,79.7±18.4,62.4±19.7/0.5cm2のTUNEL陽性細胞が出現し,対照眼に比べ(それぞれ5.2±1,2,7.8±2.3,6.4±2.2/0.5cm2),有意に多かった(P<0.001)。一方,対照眼では,リン酸化Aktの発現は見られなかったのに対し,眼圧上昇3日後に,神経線維層と神経節細胞層に,その発現が見られ,眼圧下降に呼応して,この発現は消失した.MAP1a抗体による二重染色により,このAkt免疫染色性は,網膜神経節細胞に特異的であることが示された.一方,対照眼では,GFAPはアストロサイトが発現し,ミュラー細胞は発現しなかったが,眼圧上昇によってこのパタン-ンは逆転し眼圧下降後も対照眼とは異なるパターンを持続した.ウエスタンブロットでは,リン酸化AktやGFAP量は眼圧上昇眼で有意に高くなった. 眼圧上昇ストレスによって、網膜神経細胞は依存性にアポトーシスを起こすが,同時にこれと拮抗する抗アポトーシス経路が活性化している可能性が示唆された.またグリアの眼圧ストレス応答はその種類によって異なる可能性が示された.
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