研究概要 |
熱ショック蛋白質(Hsp)は、熱や重金属、エタノールなどのストレス刺激によって誘導される蛋白質である。 昨年度の唾液腺に関する結果を本年は系統的に解析し,一応の結論を得た。唾液腺における腺房細胞の増殖分化の調節とHsp25の関係をさらに明らかにするため、導管の結紮と解除による腺房再生実験モデルを確立し、そのモデルを用いて腺房細胞の再生時におけるHsp25の時間的空間的局在を調べ,さらに細胞増殖活性との比較および細胞分化との関係を詳細に検討した。ラット顎下腺主導管を腺門部で結紮すると,約1週間で腺房が萎縮消失し,導管様構造物だけとなる。この結紮を解除すると腺房の再生が始まり,結紮解除後、3日目にHsp27免疫陽性の上皮細胞が再生腺房中に出現し、5〜10日に高い頻度で観察される。しかし,再生がほとんど終了する14日には免疫活性が殆ど消失することが確かめられた。 次にPCNAを標識として増殖細胞の分布と頻度を比較すると,PCNA陽性を示す増殖細胞は,Hsp27の発現に先立って出現し,一部の細胞はPCNAとHsp27の両方に陽性を示した。また分化はGRP-αを標識に調べると。Hsp27の発現より遅れてGRP-αに対する免疫活性が出現し,GRP-α陽性細胞の増加に反比例するようにHsp27の発現は減少した。また一部の細胞はGRP-αとHsp27の両方に陽性を示した。 以上の結果から,Hsp27が腺房細胞の再生において,増殖の終了から分化の開始にかけての境界期の限局して一過性に発現することがわかった。このことは,Hsp27が腺房細胞の増殖と分化の調節に関与し,スイッチの役割を果たすのではないかと思われた。 さらに,形態学的に検出が難しかった,ごく初期の分化段階にある腺房細胞がHsp27を特異的に発現することから,Hsp27が初期分化のよい標識物質として利用できる可能性が示唆された。
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