研究概要 |
Pratt et al.(1983、1987)によると、腎臓プロレニンRen-1-proreninとは異なり、顎下腺プロレニンRen-2-proreninの限定切断は細胞内で短時間の内に完了し活性型レニンが分泌顆粒に梱包される。しかも複数の切断箇所がありプロセシングは複雑である。本年度はプロレニン、レニンフラグメント、活性型レニンのそれぞれを認識し、他を認識しない抗体の作成を試み、次の成果を得た。 1)マウス顎下腺プロレニンRen-2-proreninの全アミノ酸配列(Panthir et al.,1982;Misono et al.,1982)に基づき、プロセシング(限定切断および化学的修飾)を受ける3つの切断箇所、それぞれをまたぐような短いペプチド(親水性で顎下腺に含まれる生理活性物質と相同性の低い領域)をデザインし、ペプチド合成装置(静岡大学・理学部に設備、静岡大学・理学部・地球環境学科、田中滋康教授との共同研究による。)で合成した。これを抗原としてウサギに免疫しポリクリーナル抗体を作成した。 2)得られた抗体、それぞれを用いて、マウス顎下腺パラフィン切片に免疫染色を施した結果、第2の切断箇所、Arg63-Ser64をまたぐペプチドの抗体の作成に成功したことがわかった。しかし、残念ながら、他の切断箇所Cys18-Thr19、Arg363-Asp364についてはデザインしたペプチドは抗原として認識されず抗体は得られなかった。抗原とした第2切断箇所をまたぐペプチドST-161は11個のアミノ酸で構成され、配列を次に示す。 ST-161:Thr-Lys-Arg-Ser-Ser-Leu-Thr-Asp-Leu-Ile-Cys 3)免疫染色の結果、3T-161が局在するオルガネラはゴルジ装置、未熟な分泌顆粒を含むトランスゴルジネットワーク(TGN)に相当する領域顆粒性導管細胞の核周部であることが明かとなった。すなわち、これらコンパートメントでArg63-Ser64の切断が行われるため、成熟分泌顆粒にはプロセスされたレニンフラグメントや活性型レニンが含まれ、切断部位をまたぐような領域をもつプロレニンは存在せず、プロレニンがArg63-Ser64でプロセスされるのはこれらのコンパートメントであることを強く示唆している。
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