研究概要 |
リン酸3カルシウム(α-TCP)とポリリンゴ酸から得られるセメント硬化体の臨床応用への検討を行った.練和液としてのポリリンゴ酸はDL-リンゴ酸を用いて合成した.このポリリンゴ酸の10,20,30,40%水溶液を作製して,α-TCP粉末と練和を行い得られた硬化体の物性を測定した.比較対照として同じ濃度のリンゴ酸水溶液を用いた.なお,粉液比については操作性を優先するためにP/L=1.0(g/g)と1.5(g/g)の2条件とした.これらのなかで操作性の良好であった硬化体の硬化時間,圧縮強さならびに崩壊率の測定を行った.さらに,硬化体表面の形状をSEM観察ならびに硬化体中の反応生成物の同定を行うために硬化体のX線回折を行った.その結果,操作性を考慮すると30,40%水溶液を用いることが望ましいことが判明した.この水溶液で得られる硬化体の硬化時間に関しては水溶液の濃度が大きくなるに従い有意に短く傾向が認められた.比較対照として用いたリンゴ酸との間に有意差は認められなかった.圧縮強さに関しては,ポリリンゴ酸水溶液の濃度が大きくなるに従い,強さは有意に増加したが,比較対照のリンゴ酸と比較して小さな値を示した.崩壊率に関しては,ポリリンゴ酸の崩壊率は比較対照のリンゴ酸より有意に大きな値を示した.X線回折の結果からはα-TCPのピークは認められたが,ハイドロキシアパタイトに起因するピークは認められなかった.SEM観察では反応生成物の形状ならびに試料表面の構造物に比較対照のリンゴ酸と差は認められなかった.ポリリンゴ酸とリン酸3カルシウム(α-TCP)との硬化機構はリンゴ酸を用いた場合と同様にカルボキシル基とカルシウムのキレート反応によるものと推察された.また,生体親和性に関しては,セメント硬化体の細胞毒性について主に検討を行った.その結果,細胞毒性についてはポリリンゴ酸ならびにコントロールに用いたリンゴ酸から得られた硬化体ともに細胞毒性は少ない結果が得られた.今後も反応機構の解析,さらに実験動物を続けていく予定にしている.
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