研究概要 |
本研究は口腔顔面領域の表在性感覚の変調に関する実験的研究として,高張性食塩水の咀嚼筋あるいは頸肩筋への注入ならびに手指冷却がいかに口唇の触感覚受容性に影響を及ぼすか検討を行った. 被験者には本学教員を用いた.触感覚刺激はAir-Puff刺激装置を用いて口唇に行った.口唇の触刺激に同期した体性感覚誘発脳電位(SEP)を電極部位Cz,C3,C4から導出した.SEP計測は,筋痛誘発では,痛み誘発前にSEPを500回加算し,さらに筋痛誘発後に500回の加算を2回繰り返した.一方,手指の冷却によるSEP計測では,冷却前,冷却中,加温後のそれぞれにSEP加算を200回行った.咀嚼筋あるいは頸肩筋痛の誘発は,左側咬筋あるいは左側頸肩筋(僧帽筋)へ0.9%生理的食塩水ならびに5%の高張性食塩水をそれぞれ0.5ml注入して行った.一方,手指の冷刺激には左側手指を4℃の冷水に浸漬して行なった. 1.咬筋への高張性食塩水の注入によりN20,P30成分の潜時は影響されなかったが,疼痛誘発時のN20とP30の振幅はいずれも注入前に比べて有意な低下を示した. 2.咬筋への高張性食塩水の注入により指尖血流ならびに体温は,注入前に比べて有意に低下した. 3.僧帽筋の疼痛誘発においてN20とP30の振幅はいずれも注入前に比べて有意な変化を示さなかった. 4.手指の冷却による影響では,SEP波形のN20とP30の振幅は,冷却前に比べて有意に上昇した. 5.手指の冷却によって,指尖血流ならびに体温は,冷却前に比べて有意に低下した. 以上のことから,咀嚼筋痛の誘発が口唇触感覚受容性を有意に抑制したことは,疼痛情報が触感覚受容性を抑制した結果であり,touch gateと推察される.一方,手指の冷却による口唇の触感覚の上昇は交感神経系の興奮を介する触感覚情報伝達系の亢進と推察される.
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