研究概要 |
最近の分子生物学的手法を応用した先端治療の導入,そして外科的治療法の技術進歩に伴い,局所における癌の制御率は向上している。しかしながら,いまだ癌細胞の遠隔臓器への転移を完全に制御しきれていないのが現状である。癌治療の現場において,まさに遠隔転移をいかに制御するかが最大の焦点となっている。原発巣で増殖した癌細胞は多数の複雑な過程を経て遠隔転移を成立させているなかで,癌細胞が基底膜基質を分解する過程は血管内外への移動の過程であり,最も重要な過程と考えられる。本研究者はこれまでに癌細胞が基底膜を分解する過程を観察するモデルとしてフィブロネクチン分解・浸潤モデルを用い研究を進めてきた。 本研究では共焦点レーザー顕微鏡を用いることにより,癌細胞は浸潤を開始する際に形成している突起構造をinvadopodia(浸潤突起)を3次元的に捕らえることに成功した。同時に細胞骨格の一つであるアクチンがinvadopodiaへの凝集が観察でき,アクチンの再構成がinvadopodia形成に大きく関与していることが確認された。そこでアクチンの再構成の制御に関与している低分子量GTP結合蛋白質Rhoファミリーの関わりを検討した。Rhoファミリーとして分類されているRho, Rac, Cdc42は細胞接着,細胞運動,細胞質分裂,細胞の極性などの多くの細胞機能において各々は独立した機能を有しており,細胞形態に関してRhoはストレスファイバー,Racは葉状突起(ラメリポディア),Cdc42は糸状突起(フィロポディア)形成を担っているとされている。基底膜浸潤に関してこれらの影響を検討したところ,Rhoはアクチンの増生を示すものの,浸潤には影響を与えず,Racはびまん的な浸潤像,Cdc42は点状の浸潤像を示した。すなわち低分子量GTP結合蛋白質RhoファミリーのRho, Rac, Cdc42は各々独立した機能を有して基底膜浸潤に関与していることが分った。
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