研究概要 |
目的:平成14,15年度において,舌扁平上皮癌細胞から分離した高浸潤性SAS-H1細胞に対してGFP導入癌細胞を作製し,GFP高発現癌細胞の安定株を得た.GFP高発現癌細胞をヌードマウスへ同所移植し,in vivo浸潤転移モデルの作製を行った.この浸潤転移モデルを用いて,分子標的薬ならびに抗菌ペプチドによるin vivoにおける浸潤転移抑制治療効果を判定することを目的とする.有効な治療薬については,投与方法,至適濃度,投与間隔等について検討する.口腔扁平上皮癌のin vivo転移実験系を確立し、分子標的薬による治療効果を判定する。 方法:高浸潤性ヒト舌扁平上皮癌細胞SAS-H1にpEGFP-N1プラスミド(CLONTECH)を電気穿孔法(Nucleofector device)で遺伝子導入を行った.GFP高発現癌細胞2X106個をKNS系雄性ヌードマウス(4-6週齢)の舌側縁に注入した.細胞を注入して1日目にLY294002(0,25,50,100mg/kg)を4週にわたり毎日腹腔内へ投与した.4週後に担癌マウスは屠殺し蛍光実体顕微鏡下(KEYENCE)で観察を行った.さらに,同様にヒト抗菌ペプチドであるhCAP18(0,50,100μg/ml)を原発部の腫瘍に毎週2回,局所投与を行い効果を検討した. 結果:GFP高発現癌細胞を舌側縁に注入し1日経過したものを観察すると,腫瘍細胞が粘膜を通して蛍光を発現していることを認めた.注入後4週屠殺して,舌原発部を中心に周囲にGFP発現癌細胞の播種が認められ,すべてのマウスで頸部リンパ節転移を認めた.GFP高発現細胞が頸部リンパ節で観察することができた.LY294002投与群では,投与濃度依存的に原発部腫瘍の局所浸潤と頸部リンパ節転移が減少した.100mg/kgのLY294002を投与したものでは,頸部リンパ節転移の完全な阻害効果が観察された.一方,hCAP18投与群では,原発部の腫瘍容積が濃度依存的に減少したが,頸部転移リンパ節の阻害効果は得られなかった. 結論:LY294002は局所浸潤,微小転移巣と頸部リンパ節転移を阻害することがin vivoで示されたことから,口腔扁平上皮癌における有効な治療薬としてPI3K阻害剤が重要であることが示唆された.また,われわれの結果から,PI3K阻害剤と抗菌ペプチドであるhCAP18の併用により,口腔扁平上皮癌の癌転移と癌細胞の増殖を阻止する有効な手段であることが示唆された.
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