研究概要 |
骨組織の治癒過程におけるBMPの特異的receptorであるBMPR-IBの遺伝子発現を検索した。 組織学的方法 材料には体重約200gのWistar系ラットを用いて、脛骨を骨折させた。また骨組織再生の他の実験モデルとして,第1臼歯の抜歯を行い,抜歯窩における骨の再生過程も観察した。術後1,2,4,5,7,14日に1% glutaraldehydeを含む4% paraformaldehyde溶液を用いて左心室より灌流固定し、光顕および電顕を用いて遺伝子発現観察した。 光顕ISHではBMPR-IB mRNAのsignalは抜歯後1日目で抜歯窩壁面付近の破骨細胞および線維芽細胞様細胞に発現した。抜歯後2日目では破骨細胞に最も強いsignalが観察された。また,抜歯窩内の広い範囲の線維芽細胞にsignalが発現した。抜歯後3日目ではsignalは骨梁付近の骨芽細胞やその周囲の線維芽細胞に発現,抜歯後4日目以後ではsignalはほとんど観察することはできなかった。 電顕ISHでは抜歯後1日目の抜歯窩壁面付近にみられる骨芽細胞や線維芽細胞および破骨細胞のattached ribosomeにsignalが認められ,抜歯後2日目では破骨細胞のsignalが最も強かった。また,抜歯窩内の線維形成にともなって線維芽細胞のsignalは骨芽細胞よりも強かった。抜歯後3日目では骨形成が開始され,骨芽細胞のsignalは線維芽細胞よりも強かった。抜歯後4日目では線維芽細胞および骨芽細胞に強いsignalがみられ,両者のsignalの強さに差はなく,破骨細胞にはsignalはほとんどみられなかった。抜歯後5日目では骨芽細胞のsignalは線維芽細胞のものより強く,抜歯後14日目以降では骨芽細胞に弱いsignalがみられたが,線維芽細胞にはほとんどsignalは観察されなかった。またsense鎖BMPR-IBを用いた光顕および電顕ISHでは,抜歯窩壁面付近の線維芽細胞,骨芽細胞,破骨細胞にsignalは全くみられなかった。 以上のことから,BMPは抜歯窩の治癒過程の初期段階では新生骨や線維形成を促進するほかに骨形成に先行して骨吸収を促進するものと考えられた。また,電顕ISHは光顕ISHよりも高感度で細胞の同定も容易であり,今後の遺伝子発現の検索に有用な研究方法であるものと考えられた。
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