研究概要 |
前歯部開咬を伴う下顎前突患者に対して,下顎枝矢状分割術を行い顎顔面形態を著しく変化させた場合,嚥下時の舌運動がどのように変化するのか,について調査した。術前矯正が終了した時点で,オーバージェット-1.0〜-10.0mm(平均-4.0mm),オーバーバイト-0.2〜-7.0mm(平均-3.5mm)の18歳から28歳の男性2名,女性5名を被験者として,下顎枝矢状分割術の術前1か月以内および術後4か月以内に,硫酸バリウム10mlの嚥下過程をX線映画により側面から撮影した。得られたフィルムより嚥下の7時点を設定し,各時点間の時間や数時点における舌位を計測し,術前と術後の各計測値を比較した。また,過去に我々が明らかにしたコントロールの値との比較も行った。その結果,1.各時点間の時間は,術前術後で有意な変化は見られなかった。2.舌・口蓋閉鎖開放時点,バリウム先端の下顎下縁通過時点およびバリウム先端の食道口到達時点における舌尖の位置は,術前より術後の方が有意に後方に位置していた。3.舌・口蓋閉鎖開放時点およびバリウム先端の食道口到達時点において,術前の舌-口蓋接触距離はコントロールより有意に小さかったが,術後には,コントロールとの間に有意差がなくなった。4.舌背前部や舌背中部は,術前術後で変化なく,コントロールより有意に低い位置にあった。以上の結果より,嚥下時の舌と口蓋の接触や舌尖の位置は変化した顎顔面形態に適応するが,舌背前部や舌背中部の動きは,顎顔面形態よりむしろ咽頭括約筋に影響されていることが示唆された。
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