研究概要 |
歯の移動は,矯正装置によって持続的な力を加えることで生じる.歯の移動に伴い痛みが生じることは知られており,これは患者にとって不快事項のひとつである.しかしながら,歯の移動で生じる痛みに関する研究は我々の研究を除き歯科矯正の分野ではほとんどなされおらず,この痛みへの対応は通常なされていないのが現状であった.我々は今までに歯の移動で痛みの発症機構について,感覚伝導路,感覚上位中枢および遠心制御系の3経路で検討を試みた結果、歯の移動による侵害情報はいわゆる急性の痛みとは異なる伝達経路で中枢神経系を伝達され、中枢神経系の様々の部位において内因性に制御されていることを報告してきた。特に、セロトニン等のモノアミンが歯の移動の痛みに反応して代謝が亢進することから、痛みに対して内因性鎮痛物質が産生することも示唆されている。 われわれは本研究においてこの内因性鎮痛物資が歯の移動によって生じる痛みの制御に関わっている可能性について検討を行った。その結果、内因性鎮痛物質の一つであるエンケファリンの前駆体であるpreproenkephalin mRNAの発現が三叉神経脊髄路核尾側亜核で亢進することを見いだした。さらに、興味深いことに、三叉神経脊髄路核吻側亜核においてもそのmRNAの発現レベルが亢進することが明らかとなった。この結果から歯の移動によって生じる痛みは、内因性鎮痛物質の一つであるエンケファリンの産生によっても制御されることが示唆された。現在、これらの成果は論文投稿中である。
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