研究概要 |
本研究は、プロテオミクスの手法を用いて、歯周病細菌を感染させたヒト血管内皮細胞より誘導、産生されるタンパク質の解析を行い、感染性心内膜炎の発症成立機構を解明することを目的とした。A.actinomycetemcomitans(Aa)SUNY465株を感染させたヒト血管内皮細胞(EA.hy926)より誘導されたタンパク質を解析したところ、数種類の炎症性サイトカインが誘導されている可能性が示唆された。そこで、次に、炎症性サイトカインと免疫担当細胞の相互作用に着目した。Aaのロイコトキシン(Ltx)は、細胞表層にβ2インテグリン(CD11a/CD18)を発現するヒトの細胞を認識し、アポトーシスを誘導する。そこで、数種類の炎症性サイトカイン(IL-1,TNF-α,IL-4,IL-6など)でヒト前骨髄芽球細胞(HL-60)を前処理後,CD11a/CD18のmRNA、タンパク質の発現量および同細胞への結合能を解析した。また、炎症性サイトカインで前処理した細胞をLtxで1時間刺激後、フローサイトメトリーでミトコンドリアの膜電位変化、活性酸素産生能、caspase-3活性を測定した。ノーザンブロット分析により、TNF-αおよびIL-1βは5分間以上HL-60細胞を刺激すると顕著にCD11a mRNAの発現量を増加したが、CD18 mRNA の発現量に変化は認められなかった。TNF-αおよびIL-1βは、濃度依存的にCD11aのレセプタータンパク質の産生を促進したが、CD18には顕著な差は認められなかった。TNF-αで前処理後、ビオチン化したLtxを同細胞へ作用させるとLtxの細胞への結合能が増加した。同様に前処理した後、Ltxで刺激するとLtx単独で刺激した場合と比較して有意にミトコンドリアの膜電位が低下、そして活性酸素産生量が増加していた。その上、有意にcaspase-3活性を促進した。一方、IL-1では、Ltxによる標的細胞のアポトーシスの促進効果は弱かったが、IL-4とIL6においては、これらの促進効果を全く示さなかった。また、これらの炎症性サイトカインの中でもTNF-αは、TNFレセプター1を介してヒトβ2インテグリンの発現を増強し、Ltxによる標的細胞のアポトーシスをさらに促進することを示した。さらに、CD11aとCD18のモノクローナル抗体を用いたLtxによるHL-60細胞のアポトーシスの抑制実験の結果より、CD1がアポトーシスのシグナリングにおいて主要な役割を果たしていることを新たに見いだした。以上のことから、TNF-αは、Ltxと共に作用して、Aaに関連した感染症における病原性メカニズムに機能的な役割を果たしている可能性が示唆された。
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