研究概要 |
一電子還元剤としてインジウム(In)を用いてハロアルキンの閉環反応を検討し、簡便な新規ラジカル閉環反応を開発することができた。反応条件を変えるだけでアトムトランスファー-5-エキソ閉環反応と還元的-5-エキソ閉環反応を区別する事が出来るという点で、これまでに例の無い興味深い反応である。ヨウ素のかわりに臭化水素酸ピリジニウムペルブロミドを添加することで、芳香族化合物においても短時間で収率良くラジカル閉環反応を達成した。ワンポットラジカル環化反応-鈴木-宮浦カップリング反応により、オレフィンのZ体、E体、二置換体の作り分けに成功した。さらに還元的-5-エキソ閉環体からは、電子不足オレフィンとのタンデム-1,4-付加反応による炭素鎖伸長反応や、還元的閉環体である二環性複素環化合物から誘導したアルコール体とデカヒドロイソキノリンやスルホンアミド誘導体を結合させることにより、代表的なHIVプロテアーゼ阻害剤サキナビルに匹敵する抗HIV活性を有する化合物を合成することができた。 またアルキリデンオキシインドール類は合成的にも生物学的にも良く知られている化合物である。例えば(E)-アルキリデンオキシインドール類はプロテアソーム阻害剤であるTMC-95Aの重要な合成中間体であり、また(E)-や(Z)-アルキリデンオキシインドール類にはチロシンキナーゼ阻害活性、細胞周期抑制活性、抗リウマチ活性など多くの生物活性を有する化合物が含まれている。さらに二置換アルキリデンオキシインドール類は乳ガン治療薬タモキシフェンの類縁体と見なせ、生物活性が期待される化合物である。このように重要な化合物であるにもかかわらず、(E)-,(Z)-,二置換アルキリデンオキシインドール類の立体選択的合成法に関してはいまだ良い方法が確立されていないのが現状である。そこで当研究室でこれまでに得られたインジウムによるラジカル環化反応に関する情報を基礎にして、インジウムカチオンのアミドカルボニル酸素に対する分子内配位結合を利用した立体選択的(E)-,(Z)-,二置換アルキリデンオキシインドール類の合成法の確立を計画し、さらに種々条件を検討した結果、環境調和型一電子還元剤である金属インジウムを用いることによりはじめて立体選択的に(E)-,(Z)-,および二置換アルキリデンオキシインドール類の合成を達成することができた。ここで得られた研究成果は3-アルキリデンオキシインドール類のチロシンキナーゼ阻害活性をはじめとする幾つかの生物活性研究に対する簡便かつ立体選択的な化合物供給手法を提供することを可能とした。
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