研究概要 |
アーユルヴエーダ医学において肥満や糖尿病の予防や治療に用いられるSalacia reticulata(幹,根部)をはじめとしたSalacia属植物について,抗肥満および抗糖尿病作用の解析ならびに活性成分の探索研究に着手した結果,スリランカ産S.reticulata MeOH抽出エキスに,二糖類であるショ糖および麦芽糖負荷ラットにおける強い血糖値上昇抑制作用が認められた.一方,単糖のブドウ糖負荷モデルにおいては殆ど作用を示さなかったことから,その作用様式としてα-グルコシダーゼ阻害活性が示唆された.そこで,ラット小腸刷子縁膜由来α-グルコシダーゼ阻害活性を指標に活性成分の探索を実施したところ,新奇なチオ糖スルホニウム硫酸塩構造を有するsalacinolおよびkolatanolを単離し,その化学構造をNMRおよびX線結晶構造解析などにより決定した.さらに,salacinolについてin vivoにおける糖負荷試験を検討した結果,市販α-グルコシダーゼ阻害剤のacarboseよりも強い血糖値上昇抑制作用が認められ,これらのチオ糖誘導体が新たなα-グルコシダーゼ阻害剤の候補化合物として有望であることが示された. また,Salacia属植物(S.chinensis)に含有されるキサントン配糖体mangiferinやトリテルペン成分に,白内障や神経障害などの糠尿病合併症の予防効果が期待できるアルドース還元酵素阻害活性が認められた.一方,S.reticulataの熱水抽出エキスについてZucker fattyラットや高脂肪食飼育ラットにおける体重増加の抑制傾向が認められ,また含有ポリフェノール成分にはブタ由来膵リパーゼおよびラット脂肪組織由来リポプロテインリパーゼ阻害活性が認められたことから,小腸からの脂肪の吸収と脂肪蓄積の両方を抑制すると示唆される結果を得,肥満や高脂血症予防に有効であることが明らかとなった. その他,アーティチョーク(Cynara scolymus L.,葉部)含有セスキテルペンに血清中中性脂質抑制作用が認められ,また,flavonoid類について,アルドース還元酵素阻害活性,AGEs生成抑制活性およびラジカル消去活性における活性発現の必須構造や構造活性相関を明らかにするなど,本研究課題の当初計画についてほぼ達成したものと考えられる.
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