研究概要 |
心不全や狭心症の治療に用いられる有機硝酸薬は古典的な薬剤であるにもかかわらずその作用機序は十分に知られていなかった.今回我々は,ニトロール(ISDN)やニトログリセリン(NTG)からの一酸化窒素(NO)放出機構をin vitroおよびin vivoで検討し,これらの薬剤が細胞質内のある種のcytochrome P450 (P450)分子種により代謝され,NOを放出し,静脈系および冠動脈を弛緩させることを見いだした.また,有機硝酸剤を持続投与すると硝酸剤耐性が出現するが,本耐性の出現機序も十分には解明されておらず,間欠的投与以外有効な手段は無かった.我々はまず,硝酸薬耐性(休薬による耐性の解除)を再現しうる耐性モデル(ラット)を作成,確立することに成功した.本実験系を用いて耐性出現時には,動脈内皮におけるP450の不活化によるNO産生の減弱が関与すること,休薬によりP450量が回復し,NO産生が増加することを見いだした.さらには本耐性出現の関連分子種であるCYP1A2の誘導剤であるアセトンを投与しP450を誘導しておくと硝酸薬持続投与による耐性出現を回避しうることを見いだした.さらに,NTGはISDNより早期に耐性が出現すると臨床的に報告されてきたが,本モデルにおいてもこの現象は再現され、CYP1A2量減少も並行することが判明した.しかしながら,本耐性は多因性であると考えられるため,それ以外の耐性機構の解明と臨床に応用できる克服法試みている.現在,抗酸化剤であるビタミンEの過剰投与により耐性出現が遅延しうることを見いだしたので、その機構について検討中である.本遅延機構にはP450以外の機構もあることが考えられ,cGKIやVASPの関与を検討中である. 以上のような研究により有機硝酸薬の作用機序および耐性機構の一端を解明でき,耐性出現克服への一助になったものと思われる.今後さらに耐性機構の全容解明のため本研究を継続する予定である.
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