研究概要 |
自然環境中における抗生物質耐性菌の動態を知ることは,抗生物質耐性菌のさらなる拡大を防ぐうえで重要である.本研究では河川における抗生物質耐性遺伝子の分布,および河川に生息する細菌の抗生物質に対する応答について検討し,以下の知見を得た. 1.猪名川および神崎川より河川水を採取し,20種類のテトラサイクリン耐性遺伝子の検出を試みた.その結果,汚染の少ない地点ではtet遺伝子は検出されず,下流域では培養試料から6種類が検出された.とくに汚染の進行した地点では13種類のtet遺伝子が検出できた. 2.βラクタマーゼ遺伝子を検出するためのPCRプライマーをデザイン・作成し,河川におけるβラクタマーゼ遺伝子の分布を調べた.その結果,河川には多様なβラクタマーゼ遺伝子をもつ細菌が存在し,本研究で作成したPCRプライマーが,自然環境中における本遺伝子の動態を知るうえで有効であった. 3.バイオフィルム形成の足場としてガラスビーズを用いたマイクロコズムを作成し,水圏環境中のテトラサイクリン耐性菌の挙動を調べた.その結果,抗生物質存在下では,バイオフィルム中の細菌群集の多様性は,浮遊細菌群集より高く,バイオフィルム形成の足場を与えることで,細菌群集の多様性の増加が促進されることが示された.このことから,バイオフィルムの形成は,多様な細菌種に,抗生物質に対する耐性と生残の機会を与え,より多様な群集構造の形成に寄与したと考えられる.
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