研究概要 |
【研究背景】これまでのわれわれの研究から,早期乳がん患者のがんに対する心理的態度(悲観・絶望)に家族機能(特に意思疎通)が関連していることが明らかになった。しかし,再発の危険性というストレスを抱えながらの乳がん患者のがんに対する心理的態度が長期的にはどう変化するのか,その変化に家族機能がどのように関連しているのか,について実証的な研究はまだ報告されていない。【目的】乳がん患者のコーピングスタイルが,患者およびその夫の家族機能認知を含めた諸因子によってどう変化するかを追跡調査する。【方法】対象は,広島大学病院乳腺外科において早期乳がんの手術療法を受けた後に外来通院中の患者(N=72)で,術後3ヶ月以上経過した時点(Time 1)およびその3年後(Time2)において,がんに関する医学的因子のほか,患者のがんに対するコーピングスタイル,患者および夫における不安,抑うつ,家族機能認知などを評価した(N=55)。本調査への参加については,患者本人および夫から文書にて同意を得た。【結果】早期乳がん術後患者においては,その長期経過とともに「前向き」なコーピングは低下するものの,当初家族の「凝集性」が高いと感じていた患者ほど,その低下の度合いは小さかった。他方,「悲観・絶望」的なコーピングも長期経過とともに低下する傾向にあったが,当初の「あきらめ」コーピングが減じるほど,また家族の「意思疎通」が当初より改善したと感じている患者ほど,「悲観・絶望」コーピングが低下していた。【考察】早期乳がん術後患者において,生存率の向上につながる可能性のある「悲観・絶望」的でない「前向き」なコーピングスタイルを維持するためには,徒らにあきらめの姿勢にならず希望を持ち続けられるように患者を支援し,家族内の意思疎通を促進し,家族の凝集性を高めることのできるような家族介入アプローチが重要であると考えられた。
|