研究概要 |
現在,morphineはがん性疼痛をはじめ,難治性の痛みの鎮痛薬として使用されている.このmorphineによる鎮痛の作用機序の一部に中枢性コリン作動性神経の関与が考えられているが,その詳細は不明である.そこで本研究では、脊髄内のムスカリン受容体に着目し,熱刺激に対するmorphineによる抗侵害効果との関与について検討した.実験は、ddY系雄性マウス(25-35g)を用いた。抗侵害効果の評価は、熱刺激によるtail-flick testにより行なった. morphineのs.c.,i.c.v.およびi.t.投与は,用量依存的に熱刺激に対する逃避反応を抑制した.このmorphineによる抗侵害効果は,ムスカリン受容体拮抗薬atropineのi.t.投与により用量依存的に抑制された.この結果から,morphineによる抗侵害効果に脊髄内ムスカリン受容体の関与が示唆された. ムスカリンM1受容体拮抗薬pirenzepineのi.t.投与は,morphineのs.c.投与およびi.c、v.投与による抗侵害効果を用量依存的に抑制したが,morphineのi.t.投与による抗侵害効果には,全く影響しなかった.また,ムスカリンM2受容体拮抗薬methoctramineのi.t.投与は,morphineのi.t.投与による抗侵害効果を用量依存的に抑制したが,morphineのs.c.投与および.i.c.v.投与による抗侵害効果には,全く影響しなかった.一方,ムスカリンM3受容体拮抗薬4-DAMPのi.t.投与は,morphineのすべての投与方法による抗侵害効果に全く影響しなかった.さらに,ムスカリンM1受容体作動薬McN-A-343のi.t.投与は,用量依存的に熱刺激に対する逃避反応を抑制した. 今回の研究から、これまで十分に明らかにされていない脊髄内コリン作動性神経やバソプレシン受容体の関与に焦点を当て「疼痛」の新規の仕組みが解明された。この種の研究は,ヒトの痛みの仕組みの解明する橋渡しをなすと考えられる。今後、これらの基礎的な研究成果をもとに、痛みに対する新規治療薬の開発を目指す。
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