研究概要 |
動脈硬化発症において、マクロファージ(Mφ)は重要な役割を果たしている。Mφに発現しているIgGレセプターIII(FcγRIII : CD16)の可溶型,sFcγRIIIa^<Mφ>測定法を用いて、生体内におけるMφ活性の新しい測定法として動脈硬化診断への応用を検討した。 血漿sFcγRIIIa^<Mφ>は糖尿病併発例を除いた虚血性心疾患(CAD)症例では明らかな高値を示し、冠動脈の有意狭窄数が増すに従い増加した。LDL/HDLコレステロール比と正の相関を、HDLコレステロール値と負の相関を示したが、高感度CRPとの相関は認められなかった。intactあるいは血管痙攣性狭心症(VSA)ではsFcγRIIIa^<Mφ>の増加は認められなかった。特殊な動脈硬化形成過程を経る糖尿病併発例のCAD症例を比較検討したところ、健常者に比して高値を示したが、その増加は重度から軽度まで幅広く、正常血糖のCAD症例群に比して有意に低いものであった。sFcγRIIIa^<Mφ>/総sFcγRIIIの比で比較したところ、糖尿病併発の有無による差は軽滅された。しかし、sFcγRIIIa^<Mφ>低値群はその比においても低いものが多く、糖尿病併発例の動脈硬化形成過程ではMφの関与が比較的小さいこととともにsFcγRIIIsの排泄が亢進しているものと考えられた。 健常者では、血漿sFcγRIIIa^<Mφ>量は加齢とともに増加し、HDLコレステロール値と逆相関し、LDL/HDLコレステロール比と相関した。成人病検診症例で検討したところ、動脈硬化のリスクファクターが増すに従い増加した。総sFcγRIII量ではこのような差は認められなかった。最も明らかな影響が認められたのは加齢と喫煙であり、高血圧,糖尿病,高脂血症症例でも有意な増加が認められた。さらに、一部の患者において施行した頸動脈エコー検査の結果と有意に相関した。これらの結果は、動脈硬化症のごく初期よりMφが活性化されていることを示唆する所見と考えられ、sFcγRIIIa^<Mφ>が動脈硬化危険因子の指標の1つとなる可能性が示唆された。
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