研究概要 |
有明海周辺はビブリオ・バルニフィカス感染症の多発地域である。我々は2001年の1年間、有明海のビブリオ・バルニフィカスの生息状態について疫学調査を行い、分離されたビブリオ・バルニフィカスの菌株について、細菌学的、および遺伝子学的解析を行った。 2001年の1月より毎月2回、大潮の日に、有明海の3定点で海水と干潟汚泥を採取し、ビブリオ・バルニフィカスを分離同定し、最確数を算定した。さらに、柳川市沖ノ端漁港の特定の鮮魚店より有明海産の魚介類を購入し、その内臓より同様の検索を行った。海水からのビブリオ・バルニフィカスの最確数は、1月から5月までは数は少ないが検出され、6月より徐々に増加し、7月、8月、9月にピークに達した。そして、10月から徐々に減少したが、最確数が0の月はなかった。干潟汚泥からも、年間を通して分離同定された。また、調査したほとんどの魚介類からビブリオ・バルニフィカスが分離同定された。季節的には夏期に分離される数が多かったが、夏期以外でも分離された。 分離されたビブリオ・バルニフィカス菌株の溶血活性は、夏期に分離された菌株ではすべて溶血活性が高く、夏期以外の分離株は溶血活性の高い株と低い株とが半々であった。87菌株について薬剤感受性を調べたところ、CAZ, CP, MINO, IPM, OFLXが良好な感受性を示した。パルスフィールド・ゲル電気泳動法による遺伝子解析を行ったが、酵素活性が高いためか、バンドがスメア化し判読不能であった。これに、チオ尿素を50マイクロモル加えると鮮明なバンドパターンが得られた。なお、特有のバンドパターンは認められなかった。 有明海には夏期だけではなく、夏期以外にもビブリオ・バルニフィカスは生息していることが確認できた。また、溶血活性の高いものと低いものとの2種類が存在し、溶血活性の高いものは、数の増減はあるものの年間を通して生息していることが確かめられた。この事実は、慢性肝疾患、あるいは免疫不全状態の人は年間を通して、有明海産の生の魚介類の摂食を控えるべきであることを示していると考えられた。
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