研究概要 |
日本の一般病棟、緩和ケア病棟において末期がん患者を看取る看護師にインタビュー調査、参加観察を行い、<患者の思いを心から理解する-共感>、<患者の死を心から悲しむ>という感情規則を見い出した。一般病棟においては、非告知の場合には<嘘をつく>というパフォーマンスが要請されるため誤魔化さなければならず、言葉少ない患者の場合には、気持が理解できない、また、訴えの多い患者には、時には腹立ちながらも十分かかわれないことによるジレンマ、申しわけなさを感じていた。緩和ケア病棟では、短い時間の関わりとなることが多いため患者の思いを共感しにくく、また人々に‘死に場所'として認知されていることにも抵抗感を持っていた。両者とも、患者の死に慣れたくない、常に心から悲しみたいと思い、悲しめない時には戸惑いを感じていた。末期がん患者のを看取る看護師は、戸惑い、無力感、怒り、腹立ち,後悔などといった感情を持ちやすい状況にあり、またケアの評価がしにくい点からもバーンアウトに陥りやすいと推察される。 しかし、一部の中堅以上の看護師は人間対人間の関係、ケアリング体験を有し、「あの時から、自然に患者に関われるようになった」と述べており、看護の感情労働を超越する側面が見出された。 また、これらは都市,地方の地域性には大きな違いは見られず、(1)看取りの場、(2)がん告知の状況、(3)個人的体験に関与していた。 豪州においても<共感する>という感情規則は共通していた。しかし、告知や自己決定、緩和ケアのシステムが整っており、ナースのメンタルコントロールためのカウンセリングも行われている点が、日本と大きく異なっている。そのことが、感情ワークの違いを生み出している。 看護基礎教育においては看護の感情労働のありようとその意味についての教育,さらに、臨床ではナースのメンタルヘルスケアに向けての組織的な介入の重要性が示唆された。
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