研究概要 |
本研究は,妊娠早期の流産経験をもつ女性の悲哀体験を説明記述し,その精神的苦悩を測定できる尺度を考案した。平成14年度は,国内外の文献レビューを行い従来の研究の問題点や限界などを検討した。また,流産体験の内容をバイオ・サイコ・ソーシャルモデルによる多角的に捉え,既存の尺度の作成過程とその特性について有用性と限界を検討した。そして,流産した女性9事例に対して半構造化面接を行った。結果,流産した女性の悲哀体験は,これまで報告されていた内容と類似していたが,流産したことに対する悲しみや苦悩に影響をおよぼす共通した要因が明らかにされた。要因には,その当時の医療者から受けた処置時の言動,日常の会話が流産経験を共有できる夫や友人の存在,趣味や仕事などであった。加えて,悲哀体験は個別性の高いものであるが,妊娠初期の流産は3ヵ月以内に回復しやすいという報告に反し,流産後1年を経過した事例でも,次子の出産により子供を抱いて流産以前の状態に回復できた事例や,数年間悲哀体験が長期化している事例もあることが明らかになった。これらの面接内容を参考に,平成15年度は精神的苦悩尺度(J-PGIS)を試案し,36事例の回答から妥当性と信頼性を検討した。J-PGISは流産後3ヵ月頃までの苦悩を測定し,日常生活における回復の遅延化する場合の要因の明確化と,専門的ケアの必要性をスクリーニングする目的で作成した。基準関連妥当性をみるためにZung抑うつ尺度を併用した。J-PGISの信頼性はクロンバッハα係数で,α=.656であった。また抑うつ尺度とJ-PGISの相関はr=.646(p<.001)で有意な正の相関を認めた。さらに,既往流産の回数によりJ-PGIS得点は有意な差異を認めたが,流産してからの経過時期には有意差が認められなかった。ピアグループによるサポートや専門家からなるケアプログラムの構築の重要性も示唆されたが,今後は対象数を増やし,さらに尺度の洗練を重ねる必要性が高い。
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