研究概要 |
筆者らは在宅療養をする障害児の家族(特に母親)への支援体制強化を図ることを目的として,実態を把握するためにインタビュー調査を行った。対象者は合計38人となった。子どもの年齢は10ヶ月の乳児から19歳の高校卒業後まで,子どもの疾患別の内訳は,脳・神経疾患20人,先天性心疾患5人,呼吸器疾患1人,内分泌疾患4人,染色体異常1人,神経・筋疾患3人,後天性脳障害4人であった。 その結果在宅ケア上の家族の問題として,(1)医療的ケアを他の家族(特に父親)がやろうとしないこと,(2)子どもの成長に伴い,母親ひとりのケアが困難になってきていること,(3)睡眠不足も含めた母親ひとりでケアすることの身体的・精神的負担,(4)思春期に入った子どもへの精神的ケアの困難さ,(5)学校と家庭との連携が不十分であるということが挙げられた。また医療への要望については,(1)医療・看護の質の向上,(2)病気・障害に関する情報入手の簡便化,(3)社会資源利用の手続きの一本化,(4)医療・福祉施設の拡充,(5)緊急時の対応策の明確化,(6)経済的負担の軽減,(7)医療・教育・家庭間の連携の推進が挙げられた。 在宅療養ではこれまでにも述べてきたように,母親一人にケアが委ねられているという現状は,ほとんど変わっていない。インタビューがまとまるとその都度現状を報告してきたが,その実情は(1)在宅移行時に母親は在宅療養の実際のイメージが具体化していないことが多いこと,(2)子どもは何らかの医療行為が必要なことが多く,その技術のほとんどを母親ひとりで負担しているが,家族特に父親のケアへの参加意識が低いこと,(3)母親の精神的疲弊,夜間に睡眠が取れない,子どもの将来に関する不安が大きいこと,という問題点が基本となっている。その上で子どもが学齢期になれば学校の問題,さらに子どもの成長に伴い,発達上の課題も付加されて,思春期特有の心の動きに関する問題が表出する。 小児の在宅ケアとは,在宅支援システムを通しての在宅療養を保証された自宅における子どもへのケアである。しかし,母親の「医療への要望」にもあるように,障害児を取り巻く環境は,在宅支援システムとして十分に構築されていない。障害や疾病を持つ子どもを抱える母親には,ほとんど配慮がなされていないと言っても過言ではない。母親による「医療への要望」は,今後障害児の在宅ケアにおける家族への支援体制強化のために必要不可欠な課題であり,将来的に総合的な小児の在宅ケア支援の場を構築する際の根幹になると思われた。
|