研究概要 |
本研究は,人工現実感(=バーチャルリアリティ)技術を用いて,頭位変化で生じるoptical flowを人工的に再現し,特定の運動場面に近似した視野移動状況を作り出すことにより,目標捕捉運動時の頭位変化が姿勢安定性に及ぼす影響を解析することを目的としている.平成14年度は次の研究を行った. 1)姿勢安定性指標としての評価パラメータの検討 2つの頭部位置条件(正常位および頚部伸展位)下における安静立位時の足圧中心点動揺を計測し,得られた時系列データに対してフラクショナルブラウン運動モデルを適用した.様々なバランス能力を有する若年健常者を対象とした実験を行い,フラクショナルブラウン運動モデルから得られるパラメータ(拡散係数・ハースト指数)と頭部定位方向との関連性を解析した.短期拡散係数と短期ハースト指数は,頭部位置条件間で統計的に有意な差異を示した.約1秒以下の短い時間間隔の場合,頚部伸展条件では,姿勢動揺が継続して増大しつづける時間相関的傾向が正常条件よりも強いことがわかった.短期拡散係数と短期ハースト指数は,頭位変化に応じた姿勢安定性の変化を定量的に評価する指標として有効であることが明らかとなった. 2)視覚刺激用仮想現実感システムのプロトタイプ開発 頭位変化によって生じるoptical flowをモデル化し,頭の動きに応じて仮想環境内での視点および仮想物体の位置を任意に制御できる画像生成アルゴリズムの開発を試みた.頭部の前後・左右回転運動量を物理計算によって推定し,視軸固定を仮定した状態で頭位変化のみにより生じるoptical flowをモデル化した.頭位変化で生じるoptical flowを仮想空間内の2次元画像として人工的に再現するシステムのプロトタイプを製作し,予備実験を行った.平成15年度はこれをさらに改良し,実験データを収集する.
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