研究概要 |
エリートアスリート(EL)の特徴的なミトコンドリア(Mt)遺伝子のSNPsを明らかにすることを目的として検討を加えた。対象は、陸上競技の長距離選手を中心に、実業団および大学の陸上競技部に所属する各種目の競技者182名と非鍛錬対照群112名であり、ATP合成酵素サブユニット8および6遺伝子領域であるmtDNAの8,366bpから9,207bpの領域を検索した。74ヶ所にSNPsが確認され、このうち、機能的差異をもたらす可能性のある、アミノ酸置換を伴う非同義置換は38ヶ所であった。そのなかで出現頻度が5〜95%の範囲のものは、Mt8414C→T(Leu17Phe)、Mt8563A→G(Thr13Ala)、Mt8701A→G(Thr59Ala)、Mt8794C→T(His90Tyr)の4つのSNPsであった。これら4つのSNPsの出現頻度を競技成績レベルおよび競技種目別に比較した結果、対照群におけるMt8794C→Tの出現頻度(3.6%)に比して、競技成績が優れているEL群での出現頻度(19.4%)が有意に高値であった。次に、SNPsでHaplogroup分類すると、Haplogroup VIIIに属する23名のうち、ELは6名(26.1%)を占め、非EL10名を加えると、総ランナーは16名(69.6%)であった。これに対し、他のHaplogroupに属する271名のうち、ELは25名(9.2%)であり、総ランナーは92名(33.9%)であった。Haplogroup VIIIに属するELの割合は、他のHaplogroupに属するELの割合に対して有意に高く(オッズ比=3.47,p<0.05)、総ランナーの割合も有意差が見られた(オッズ比=4.45,p<0.001)。以上の事実は、Mt8794C→TがATP合成能における遺伝的差違、あるいはトレーナビリティの個人差の要因である可能性を示唆している。
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