研究概要 |
本研究は,20世紀初頭のイギリスにおける学校体育制度の歴史的意義を明らかにすることを目的として研究に着手した。その際,研究範囲として政策と実態を網羅的に叙述することよりも,学校体育としての課外ゲーム活動の実施の歴史的経緯を中心として,その法的根拠を言及することに限定した。 本研究によって得られた知見は以下の3点である。 1.これまで研究対象とされなかったロンドンの救貧地区児童の体育・スポーツ状況を明らかにした。そして,救貧地区児童のゲーム活動実施にはパブリックスクールの伝道団や大学のセツルメントが支援しており,このことが20世紀初頭の初等学校や公立中等学校における課外ゲーム活動の進展につながることを論証した。 2.これまで体育史研究では研究対象とされてこなかったブライス委員会報告書(Gt.Brit.,Report of the Royal Commission on Secondary Education)を吟味し,中等教育機関の体育施設の有無,その規模,課外ゲーム活動,体育授業の状況を基金立学校,共同出資立学校,上級初等学校別に査定した。そして,このことが20世紀初頭の初等・中等教育における体育授業や課外ゲーム活動の進展につながることを論証した。 3.1906年教育規則(the Code of Regulation,1906.)の課外ゲーム活動条項の内容と,学校体育への影響を明らかにすることでその歴史的重要性を検討した。条項の内容は,十分な監視や指導の下にある年長の児童が適切な組織的ゲームを当局(Board of Education)の認可した取り決めの下で,学校時間中に占める一定の時間帯を出席時間(attendance)とみなしていた。1906年教育規則の課外ゲーム活動条項は,20世紀初頭の学校体育制度として,重要な内容を有していたといえる。
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