研究概要 |
両側肢の同時筋力発揮時に観察される両側性機能低下(bilateral deficit)現象は,同様に動作スピードでもみられることが反応時間課題などを用いて検証され報告されている.その発現メカニズムについては,未だはっきりとは特定されていないが,動作発現に際しての大脳半球間の両側相互の抑制作用,すなわち神経の上位中枢が要因であるとする考え方が現在のところ優勢である.本研究はその神経系が発達段階にある子どもにおいて,成人同様の傾向がみられるのかを検証し,子どもの特徴を明らかにしていくことを目的とした.本研究の実験結果からは,子どもでは成人に比べ反応時間の両側性機能低下は顕著に観察されなかった.このことは,対象としている6〜9歳の子どもでは,大脳の両側を繋ぐ脳梁などの神経束がまだ成熟段階であり,左右半球のやりとりが未発達であることが一つの要因ではないかと考えられた.また,運動指令の両側間の統合や相互間の抑制よりも,神経伝達の両側性経路など促進的な作用が優位に働いている可能性が示唆された. 研究遂行中,縦断的データを加えることの必要性が考えられ,最終年度である2004年度には,これまでにデータを得た子どもの被検者のうち可能な者に対して同様の実験をくりかえしパフォーマンスの継時的変化をみることを加えた.縦断的な観点からみると,単純反応時間そのものは,一側・両側どの条件(右手単独,左手単独,両手同時)においても加齢に伴って急速に短縮していく傾向がどの被検者にも同様にみられ,これまでに確かめられている単純な素早い動作の発達過程と同様の経過を示すものであった.しかしながら両側性機能低下減少の出現傾向については,子どもの年齢による違いよりもむしろ個人間の差が大きいものであった. これらの研究結果は,国際バイオメカニクス学会(2003年),日本発育発達学会(2004年)での発表,ならびに慶應義塾大学体育研究所紀要(2005年)での論文により報告した.
|