研究概要 |
北海道は,明治維新を境に,それ以前のアイヌを主体とする狩猟採取社会から,和人を中心とする農耕社会へと,主要な生業の形態が劇的に変化した地域である.そのため,歴史時代における人間活動が自然環境に与えた影響を検討する上で極めて重要な地域となっている.流域で行われた大規模な森林伐採と耕地の造成に伴って侵食された物質は,下流域に移動堆積することから,下流域の氾濫原や湖沼の堆積物は,過去に流域で生じた環境変化を記録している媒体と考えることができる.そこで,本研究では,堆積域である潟湖および湿地堆積物の詳細な検討と,侵食域における土壌断面の観察から,十勝平野沿岸域における開拓期の人為的な環境破壊の様相と,その環境への影響について明らかにすることを目的として研究を行った. その結果,十勝平野の諸河川が,流域における人間活動に敏感に反応して,堆積物の粗粒化や,堆積速度の増大を生じたことが確認された.そのうち,当縁川流域では,137Csや火山灰を用いた堆積物の編年の結果,戦後の急激な農地拡大に応じて,急速な砂質物質の堆積が生じていたことが確かめられた.また,それに先行する森林火災が頻発していた時期の痕跡も見出された.さらに,砂質物質の給源を粒径トレーサー法や鉱物学的な特徴を手がかりに検討した結果,豊頃丘陵に源流をもつ支流が,主要な給源であると推定された.さらには,当縁川流域においてヨシの遺伝変異を解析した結果,こうした土砂の移動が,ヨシの分布に影響を及ぼしていることが明らかになった. 湧洞川流域においては,最下流部の潟湖において堆積物コア採取して解析した結果,1920年頃から粗粒化が開始し,1960年代にはさらに堆積速度が加速したことが明らかになった.流域斜面の土壌断面の検討から,特にこの時期に急速に拡大した牧草地,放牧地の開墾が,土壌浸食の大きな原因となっていたことが推測された.
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