研究概要 |
本研究は、地図学のおかれている今日的状況を把握し今後当該分野が目指すべき方向性について検討することを目的としている。研究成果は大きく,国の基本図作成,地図のデジタル化,地図利用,国際的位置づけの四つのテーマで構成される。国の基本図作成においては,陸域および海域の両面からベースマップ整備に係る事業がどのように行われてきたかを明らかにし,近年の電子化を踏まえ,今後のあるべき将来像を展望した(谷岡、大木、2005)。地図のデジタル化については,紙地図と対比させながら地理情報システムとしてシステム化された地図の特徴と可能性,および紙地図の電子化も含むデジタル地図の収集・提供上の可能性と課題を明らかにした(碓井、2005;鈴木、2005)。地図利用については,人文地理学や地域研究などの固有の専門分野における研究道具としての主題図作成・利用がどのように行われているのかについて書誌学的調査によりその実態を明らかにし考察を行った(戸祭・宮崎、2005;小林、2005)。国際的位置づけについては,ICAにおける地図学の研究分野の流れを研究発表論文のテーマの分類を通して明らかにし,併せて戦略計画を参照しながら我が国の現状を位置づけ将来展望を行った(森田、2005)。 今回の成果は,従来の地図作成技術に加えて、特に利用面での諸課題を取り込む視点が共通にみられることである。地図作成・利用といった上から下へ流れるような順序関係が柔軟化し,地図情報の利用者がまず存在し,その人が必要な情報を如何に表現し、そのために必要な情報を如何に取得するかを考えるというパラダイムシフトが生じている。今後、この方向性に基づく研究および技術開発が進展するであろうが、更に分野として求心力を向上させるには,社会が抱えている課題に対して地図学として分かりやすい形で貢献するための戦略立案が必要となっている事が併せて確認された。
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