研究概要 |
葉酸は細胞増殖の必須因子であることから、細胞増殖が活発に行われている胎児期・授乳期に母体からの葉酸の供給が低下すると、出生子の健康状態に著しい影響を与えるものと推察される。特に、胎児の成長に見合うだけの葉酸を摂取しなければ、正常な細胞増殖が行われないだけでなく、細胞死を招くのではないかと考えられる。そこで、まず成長期のラットを用いて葉酸欠乏過程おける細胞死(アポトーシス)の誘導を、アポトーシスに特異的なタンパク質分解酵素であるCaspase-3活性を指標に検討したところ、骨髄液のCaspase-3活性が、葉酸欠乏開始6,8週目で対照群に対し七有意に上昇していた。さらに、骨髄切片を用いてTUNEL法による検出を行ったところ、アポトーシスに特異的なシグナルが検出された。以上より、葉酸欠乏過程では骨髄においてCaspase-3活性の上昇がおこり、アポトーシスの誘導が起こることが明らかとなった。 そこで、次に妊娠期および授乳期に摂取する葉酸量の違いが、出生子にどのような影響を与えるのかを検討した。妊娠ラットに葉酸欠乏食,低葉酸食,対照食を妊娠期・授乳期を通して摂取させたところ、出生子数には差がなかったが、欠乏群では30%しか生存せず、体重増加量も他の2群に比べて著しく低かった。出生子の肝中葉酸誘導体量は、母ラットの葉酸摂取量が直接影響して段階的に減少した。その結果、出生子の肝臓,脾臓,骨髄ではCaspase-3活性が上昇して、アポトーシスが誘導されることが明らかとなった。さらに、出生子の肝臓および血漿中のホモシステイン濃度の上昇と、肝臓TBARS量の増加がおこり、葉酸摂取量の減少に伴い酸化ストレスが亢進している可能性が示唆された。以上のように母ラットが摂取する葉酸量の違いは、出生子の健康状態に大きな影響を与えることが明らかとなり、妊娠期における葉酸摂取の重要性を示唆することができた。
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