研究概要 |
本研究は,注意欠陥/多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)のある児童にとって,読字行動や書字行動の獲得過程が,彼等の自己評価にどのような変化を及ぼすか,その影響について検討することを目的としていた。自作のコンピュータソフトによりADHDのある子どもを対象として漢字の読字・書字の指導を行った。また、ADHDのある児童生徒に活用可能な自己評価法を検討し、それに基づいて読字行動・書字行動の獲得と自尊心との関係を検討した。 漢字の読字・書字行動は構成反応見本合わせ法(constructed・response matching-so-sample procedure)を用いて指導した。構成反応見本合わせ課題は、標準刺激である平仮名や片仮名に対し、比較刺激である漢字の部分を正しい順序で選択するものである。漢字の種類によって、左右、上下、3つの部分に分ける構成反応見本合わせ課題を実施した。すべての参加者において、漢字の書字行動の獲得が確認されるとともに読字行動の獲得も確認された。 小学生を対象として否定的自己評価項目と肯定的自己評価項目が同数の質問紙,自由記述方式による自己評価法,肯定的記述のみによる自己評価法を用いて自己評価をもとめた。あわせて測定時の心理的不快感を調査した。その結果,自尊心が低い群の児童は,高い群の児童に比べて有意に嫌悪感を持っていることが明らかとなった。否定的表現の出現率の高い児童ほど,また,肯定的な記述が少ない児童ほど測定時の心理的不快感が高い傾向を示した。 漢字の書字が獲得された後に実施された自己評価においては,参加者の自尊心に上昇傾向が認められた。肯定的記述の内容を質的に検討すると,書字の獲得が彼らの自尊心に影響を与えていると判断された。
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