研究概要 |
本研究の目的は幼児教育において数量知識を指導するプログラムと指導法を開発するために縦断的に幼児のインフォーマル算数の実態とそれを習得する条件を明らかにすることである。1999年4月に幼稚園に入園して2002年4月に修了した幼児85人を対象にした。3年間にわたり独自に作成した数量能力調査(毎年度2回,計6回),標準化された性格診断検査(毎年度1回,計3回),標準化された総合発達診断検査(毎年度1回,計3回),対象児の家庭状況調査(2001年度1回)を実施して収集した資料を分析した。その主な結果は以下の通りである。 数量能力調査は事物の集合と数詞,数字を使い,計数,多少等判断,分配,数の保存,数の計算などで構成された。それらの課題の得点もしくは正答率の加齢に伴う推移を分析した結果,幼児期の終わり頃には計算と保存を除き,10以下の数範囲ならばほぼ完全達成した。計算は幼児期を通して獲得していくが,最も容易な合成でも7割程度の達成であった。 対象児の性格,心身の総合的な発達という個人の内的状況と対象児の兄姉の有無,5歳期における習い事の実態を明らかにした。これらの実態と数量能力調査の結果をクロスさせて分析した。その結果,数量能力獲得と関連する性格プロファイル,発達プロファイルは年齢期によって変化していくが,初期では情緒の安定や園への適応が関係し,次第に自立性に移り,後期では理性で感情をコントロールする自制性が関連していた。5歳期では特に言語発達とやや強く関連することが示された。兄姉の有無と数量能力の獲得は3歳期ではまったく関連せず4,5歳期では弱い関連があった。 こうした事実を踏まえ,幼稚園など集団教育における数量指導の方法と指導プログラム作成の留意点を考察した。
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