研究概要 |
最初に,ある教師が,美術教育実践を進めていくときの「意識」と実践する題材・単元との関係について,多角的に考察するために,研究仮説と構造スケッチを提示した。教師の「意識」は,教師自身が培ってきた規範や文化,教育現場をとりまく環境などから成り立っていることをふまえ,<意識-規範・文化>と表記した。これらをふまえ,今日的な課題と考えられる小学校「造形遊び」と小中学校鑑賞を中心にして,以下の三つの柱を立て,研究を行った。 <1.美術教育実践における課題意識の変遷>について,美術教育実践関係図書を中心に調査・研究を行った。(1)昭和52年版指導要領から一貫する「造形遊び」の趣旨と内容の拡大,(2)指導要領上における「造形遊び」の二つの源,(3)海外の美術館教育普及活動の移入が,鑑賞に影響を与えていること,(4)教師教育カリキュラムの未整備,などを確認した。 <2.現役教師の<意識-規範・文化>と実施題材・単元>については,研究サークル,学会行事,現役教師個人などに対する調査を行なった。(1)「造形遊び」の登場の意義や理念は,概ね理解されているが,実施状況は芳しくないこと,(2)鑑賞は,時間数や設備・予算などの関係で,表現活動の導入やまとめに付随させたものが中心であること,(3)先導的な教師と一般的な教師との間に溝があり,「造形遊び」や鑑賞の扱いには格差があること,などを確認した。 <3.現役教師に対する「造形遊び」と鑑賞に関する支援>については,プログラムを構想し,学部・大学院授業,各種研修会で試行し,実践報告をした。紙を変容させる「古紙をつくろう」,肌の感覚を楽しむ「手に描いて動かそう」,実際に見た展覧会をもとに作成する「ギャラリートーク」,「手作りアートカード」などを提案した。現役教師を巡る状況は厳しいが,それまで取り組めていない題材・単元であっても,適切な研修の場と時間を保障することで,取り組みが始まる可能性があることを確認した。
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