研究概要 |
科研費交付の初年度に当る平成14年度には4名,2年目の平成15年度には7名,計11名の児童の教育相談を行った。これらの児童の内,学習障害(LD)に関連する問題を持つと考えられた児童5名については,個別の教育的ニーズの把握と,継続的な学習指導を実施した。 5名の児童に対して各種心理検査(WISC-III・K-ABC・TOM・標準読書力検査,等)によるアセスメントを実施し,さらに,生育歴の聴取および行動観察の結果に基づいて教育的判断を行ったところ,言語性LD児2名(B児,E児)・境界域知能の児童1名(A児)・知的障害児1名(D児)・高機能自閉症との近接性が考えられる児童1名(C児)という結果であった。但し,言語性LD以外の事例においても,LDに類似する認知能力のアンバランスが顕著に認められた。 さらに,特にA児とB児の2名には,関係処理と項目特定処理の相補作用を促す読み指導を適用し,指導経過についての詳細な分析と検討を行なった。原則として隔週ごとに1回(約90分間)の指導を継続して実施したところ,いずれの児童においても,意味的な関係処理機能の改善が認められ,さらに,関係処理と項目特定処理を制御するメタ認知にも改善の生じることが示唆された。従って,LDまたはそれに類似する問題を持つ児童に対して読み指導を実施する際には,生来的な関係処理機能の弱さを項目特定処理で補うことが,関係処理機能自体を向上させることに役立ち,ひいては,意味と文脈を捉えて正確に読むことに役立つと言うことができるのである。
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