研究概要 |
音声言語の表出が困難な言語障害児に対して,音声言語に限らずマルチモーダルな手段により,コミュニケーション障害を補償するaugmentative and alternative coinmunication(AAC)が活用されるようになってきている。しかし,その指導方法は,課題学習により,サインやシンボルなどの記号の習得をはかり,日常場面に般化させる方法が用いられることが多く,発達初期の子どもへの適用が困難な面がある。そこで,本研究では,遊び場面など,より自然な場面で,AAC手段の習得をはかる指導の方法について検討した。 1.健常児の幼児期におけるコミュニケーション行動の発達を明らかにし,言語に遅れのある子どものコミュニケーションの発達指標にすることを自的として,健常幼児1例を対象とし,2歳1ヵ月から4歳まで,遊び場面における母子の相互交渉をビデオカメラを用いて観察・記録し,コミュニケーション行動の様式,コミュニケーション機能,母子間の相互作用の経時的変化を分析した。対象児は,発達に伴って発話の占める割合が増加し,話題を維持することができるようになった。また,母親は子どもの発話・行動の開始を待って,やりとりを展開し,調整する役割を果たしていることが示唆された。 2.重度の構音障害を伴う言語兜達遅滞児のコミュニケーション指導:知的障害,運動障害を合併し,重度の構音障害を伴う言語発達遅滞児1例を対象として,音声言語,文字言語,身振りサインを併用し,対象児の興味・関心に沿った話題や文脈を通して記号の意味の理解および使用を促進するコミュニケーション指導を行った。対象児は,サイトメガロ、ウイルス感染症,11歳,男児であった。指導開始時(6歳9ヵ月)の言語表出は「ハイ」,「イヤ」のみであった。現在,1〜2語文の音声言語,身振りサイン,書字により簡単な会話が可能になった。また,携帯電話を用いたVOCA(会話エイド)も使用するようになったしかし,重度の構音障害により,音声言語のみで了解できる内容には限界がみられた。また,文字言語についても筆談のみで十分なコミュニケーションが可能な段階には達しておらず、複数のコミュニケーション手段を併用することが実用的コミュニケーションを円滑にする上で重要と考えられた。
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