研究概要 |
本研究は,平成8年度〜平成9年度科学研究費補助金研究「第二言語としての日本語学習および英語学習の個別性要因に関する基礎的研究」の継続的,発展的研究として行った。世界的な情勢は人の移動を加速化させ,第二言語学習者は増加とともに多様化している。先の研究において,学習者の多様性を学習者集団の特性としてではなく,「個別性」として捉えようとした。学習者一人ひとりの学習/習得過程には,年齢,適性,動機・態度,学習ストラテジー・スタイル,性格・情緒のほか社会文化的な要因が複雑にかかわっているが,先の研究では,「個別性」にかかわる諸要因とその相互作用を示す枠組み(概念モデル)の提示を試みた。 本研究では,変動の激しい現代社会の影響を重要視し,社会文化的要因を中心に言語学習/習得の個別性要因に関する研究を行った。人の移動にともない,多言語・多文化化の進む状況下の第二言語教育においては,言語政策やアイデンティティの問題など,社会文化的背景が学習者および学習環境へもたらす影響を理解することが重要課題であると考えたからである。第二言語習得研究の領域においても,状況的学習論や社会文化的アプローチを基盤に,社会文化的文脈を重視した研究が行われるようになってきている。学習者の社会参加や,学習者と環境との相互作用に着目するなど,さまざまな取り組みが見られるが,本研究では,とくに「個別性」「社会文化的文脈」「学習環境」に焦点を当てた研究を概観した上で,先の枠組み(モデル)を見直し,モデルを再構築することを目指した。まず,関連の文献・資料の選定,収集を行い,次に,文献研究を行いつつ,教育実践との関係性について議論を重ねた。新しいモデルの提示には至っていないが,変化が速く,激しい現代社会にあっては,言語教育の社会的側面,教育実践およびその社会環境を捉える研究の積み重ねが求められる。
|