研究概要 |
本交付期間中の主な研究目標は,中部九州で定常的な噴気活動が見られる活火山:九重火山と阿蘇火山の湧水に,マグマ起源の二酸化炭素(CO_2)の混入が認められるか,認められるとすれば,そのような湧水の分布はどのような地質構造等の規制を受けているか,火山全体の湧水としてはどのくらいのマグマ起源CO_2の流出フラックスがあるかといったことを同位体水文学的・水地球化学的調査によって明らかにすることであった. 約90ヶ所の湧水から採取した地下水試料の化学・同位体分析から,九重火山では,形成年代の最も若い(数千年前)大船山・黒岳周辺にマグマ起源CO_2を多量に含む湧水が集中的に分布することが判明した.このような特徴的な分布は雲仙火山でも見られ(申請者らによる先行研究の結果),そこでは数千年前に形成された眉山周辺にマグマ起源CO_2を多量に含む湧水が集中的に分布する.また,湧水を通して放出されるマグマ起源CO_2のフラックスも,両火山でほぼ同じであり,1日当り約10トン程度であることが判った. 一方,阿蘇火山では,約60ヶ所の湧水で採取した地下水試料の化学・同位体分析により,湧水へのマグマ起源CO_2の混入はほとんど認められないことが判明した.これは,九重火山や雲仙火山とは全く異なった地下水系へのマグマ発散物(CO_2)供給システムが存在することを示唆している.阿蘇火山では,マグマ起源CO_2の供給先として,より深部に存在する地下水系(深層地下水系)が予想されたため,深度200mから1300mの深井戸から流出する地下水(22地点)について湧水と同様の化学・同位体分析を行ったところ,深い循環をしている地下水ほど多量のマグマ起源CO_2を含むことが示された. 本研究により,活火山の地下水系へのマグマ発散物供給システムには,いくつかのバリエーションが存在することが示唆された.
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