研究概要 |
ダイオキシン類は、今日知られている環境汚染物質の中でも特筆すべき強毒性化合物と云え、我が国の場合、嘗て散布された農薬中に不純物として含まれていたダイオキシン類による欧米に見られない特異的な農耕地土壌汚染が顕著である。従って我が国独自の視点に立脚した研究を展開する必要がある。そこで本研究課題では、農耕地からのダイオキシン類の流出とその環境中での存在及び挙動について検討した。農耕地土壌から農薬CNP中に不純物として含まれていた1,3,6,8-TCDD,1,3,7,9-TCDDが比較的高い濃度で検出された。水田土壌と河川底質中のPCDD/DFsは上流から下流域までほとんど同じ組成を示し、河川底質中のダイオキシン類の多くは農耕地からの流出によるものであることが示唆された。さらに水田から河川に流出する土壌粒子のうち、粒子径5μm以下の粒子にダイオキシン類は吸着・付着した状態で存在することを明らかにした。農作物への移行性について検討した結果、特に比較的高い濃度のダイオキシン類として1,3,6,8-TCDD及び1,3,7,9-TCDDが検出され、農耕地土壌から作物に移行することが示唆された。作物の中で果菜類であるきゅうりが高い傾向を呈した。淡水魚類にも1,3,6,8-TCDD,1,3,7,9-TCDDの高い濃度の蓄積が見られた。陸域生態系の高次生物として位置づけられる野生鳥類について、森林棲息性の猛禽類体内より高濃度が検出された。猛禽類のダイオキシン類摂取経路について、大気経由で森林樹木葉に吸着し、食物連鎖を通して植物食性の小動物に移行し、高次捕食者である猛禽類体内へ濃縮されたことが推定された。日本人のヒト血液に関する検討の結果、PCDDs,PCDFs及びCo-PCBsが7.4-23,000pg/g脂肪重、検出された。TEQ値では、7.0-46pgTEQ/g脂肪重であった。ヒト血液中の異性体は濃度が高い順に、1,2,3,7,8-PCDD次に2,3,4,7,8-PCDFであり、農薬中に不純物として含まれ農耕地土壌汚染を引き起こしている化合物はヒトでは代謝分解することが示唆された。統計分析の結果、魚を多食するヒトの血中ダイオキシン類濃度は比較的高い傾向を示し、さらに年齢との相関も見られ、ヒト体内における残留蓄積性を示した。
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