研究概要 |
本研究は鳥類における内分泌撹乱化学物質リスク評価法の確立を目標として行われた.第一に,鳥類の性決定に関与すると報告されている遺伝子やステロイド合成酵素遺伝子の発現変化と,野鳥で観察される繁殖障害との関連性を検討するために,ニワトリの胚発生期(孵卵4-16日)における尿生殖器の遺伝子発現をsemi-quantitative RT-PCR法にて測定した.しかしながら,ステロイド合成酵素遺伝子群は合成経路の下流域にあるものほど発現の雌雄差が大きい等々の生理的な変化を観察したものの,孵卵前に合成エストロジェンdiethylstilbestrolを卵黄内投与して内分泌撹乱環境を作製しても,測定したすべての遺伝子発現に対して変化を与えなかった.このため,本研究には外因性エストロジェン曝露に反応し,生殖器分化に関与する遺伝子の新たな探索が必要となった. 未知の遺伝子を合成されるmRNA量の差から検出するため遺伝子発現解析法である蛍光Differential Display法を用いた.ニワトリ受精卵にethynylestradiol (10ng-100μg/egg)を投与し,孵卵12日に胚の生殖腺からRNAを採取して投与間で差のあるmRNAを検出,cDNAを回収した.2度の投与実験において同じように雄ニワトリ生殖腺に発現が増加するmRNAが12種,発現が減少するものは1種発見されたため,このcDNAを回収・精製し,DNAシークエンサーにて塩基配列を解読して既知遺伝子とのホモロジー検索を行った.回収されたcDNA13種のうち8種は同一のmRNA由来であり,ヒトのchaperoninタンパクのmRNAに類似した構造を持っていた.さらに,発現が増加するmRNAの1つはマウスのkynurenine aminotransferase II mRNAに類似していたが,その他の回収cDNAには類似した既知遺伝子は存在しなかった.ヒト乳癌MCF-7細胞系を用いたin vitro実験でも,17β-estradiolがchaperoninの遺伝子発現を増加させることが報告されており(Charpentier et al.,2000,Cancer Res. 60,p5977-5983),これらの遺伝子はエストロジェン作用の新しいターゲットとして期待される.
|