研究概要 |
分裂酵母にカルシニューリンが存在することに着目し、細胞増殖にカルシニューリン(CN)の活性が必須であるような変異体(免疫抑制薬に感受性を示す)を10種分離し、its(immunosuppressant and temperature sensitive)変異体と命名し,原因遺伝子の同定と機能解析を行った。 現在までにits3:PI4P5K,its8:GPIアンカー合成酵素、apm1:クラスリンアダプター複合体AP-1サブユニット、cis2:ミオシン重鎖などを同定した。ts3:PI4P5KはPI4,5P2合成酵素であり、この変異体ではPI45P2の量が著明に低下している。its3変異体の表現型として細胞質分裂、アクチン局在の異常が観察され、これらは高温下、あるいは免疫抑制薬存在下で増悪することを明らかにした。さらに、GFP-Its3は細胞膜と中隔に局在し,PI(45)P2と高い親和性を示すPLC-PHドメインの局在と一致した。以上の結果から,カルシニューリンとPI4(P)5 kinaseは協同的に分裂酵母の細胞質分裂,アクチン細胞骨格系の維持に関与していることが示唆された。 apm1はクラスリンアダプター複合体AP-1サブユニットをコードしており、apm1遺伝子ノックアウト細胞ではゴルジの肥厚、輸送小胞の蓄積が観察された。また、apm1ノックアウトでは細胞質分裂、細胞壁、液胞融合の異常などが観察され、これらの表現型が高温下、免疫抑制薬存在下で増悪した。 以上の結果から、カルシニューリンとクラスリンアダプター複合体は細胞内輸送においてゴルジーendosome,およびゴルジから細胞膜へ至る細胞内輸送を共同的に制御していることを明らかにした。 さらに、カルシニューリンとMAPキナーゼ経路が拮抗的に機能することを利用したMAPキナーゼ経路の抑制因子のスクリーニングを行い、MAPKホスファターゼ、MAPKキナーゼに加えてKHタイプのRNA結合タンパク質であるRnc1を同定した。Rnc1はPmp1の3'UTRに結合することによりMAPKホスファターゼのmRNAを安定化することによりMAPK経路を抑制することを明らかにした。さらにMAPKがRnc1をリン酸化することにより、Rnc1のRNA結合能が上昇することを示した。これにより、Rnc1はMAPKのネガテイブフィードバック制御を行なっていることを明らかにした。
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