研究概要 |
細胞が癌化する過程でβ-1,4-ガラクトース転移酵素(β-1,4-GalT)ファミリーの遺伝子発現を解析すると、Hが下がり、Vが上がることを見いだした。実際、癌細胞でβ-1,4-GalT遺伝子のHを上げる、またはVを下げると、腫瘍形成能が著しく抑制された。対照と増殖が抑制された腫瘍で細胞表面糖鎖の構造を二次元マッピング法で解析した結果、糖鎖の構造が多様に変化するため、本現象に関与する糖鎖を特定することは難しかった。 そこで方針を変え、正常なマウス繊維芽細胞NIH3T3を用いて、細胞密度が飽和(100%)に達し増殖が停止する時に細胞表面のガラクトシル化やβ-1,4-GalT遺伝子の発現が変化するかどうかを解析した。その結果、細胞密度が高くなると、80K,110K,120K.160K,230Kのタンパク質でガラクトシル化が著しく亢進すること、β-1,4-GalT IIの遺伝子発現が増大することを、見いだした。そこでNIH3T3細胞にアンチセンスβ-1,4-Gal II遺伝子を導入しβ-1,4-Gal IIの発現を抑制したところ、230Kのタンパク質のガラクトシル化が著しく抑制された。こうしたガラクトースを末端にもつ糖鎖は、ガラクトース受容体と結合し、細胞の増殖制御に関与している可能性が考えられる。密度100%の細胞から細胞膜タンパク質を可溶化し、これをガラクトースを末端にもつ糖鎖を固定したカラムで分画すると、0.1Mガラクトースで溶出される画分に35Kのタンパク質が主要バンドとして得られた。これをMSで解析した結果、ガレクチン3であることが判明した。ガレクチン3は同種細胞の凝集に関与することが知られているので、ガレクチン3は細胞密度の増大に伴い亢進してくるガラクトースと結合し、増殖を制御している可能性が考えられる。
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