研究概要 |
1.初期胚のβ-カテニン.受精卵ではβ-カテニンタンパクが動物極側に集まり、その後胚の半側で高濃度になる。64細胞期に全細胞で核内移行が起こり、局在性を認めない。初期原腸胚では核内β-カテニンが背側に認められるが、同時にgoosecoidやlhx3の遺伝子発現も起こり、β-カテニンとこれら遺伝子との関係が明かでない。LiCl処理胚では核内β-カテニンが動物極に寄り、非対称性が無くなるが、正常の背腹・左右非対祢性は認められた。 2.初期胚の左右非対称性.pitxの発現で明らかになる左右非対称性は、自然発生した一卵性癒合双生胚とLiCl処理による背側軸構造の発育不全胚において正常である。受精卵に電気パルスを与えると癒合双生胚がわずかに高率に出現する。それらの多くで左個体は左に、右個体は右にpitxが発現する。以上から、ナメクジウオ胚は発生早期に左右非対称性が確立することを示唆する。2細胞期胚の割球を分離すると、それぞれから完全な胚が発生する。それらのpitxとnodalの発現を見ると、ほとんどが正常な左側の発現を示すが、ほぼ半分ずつで発現の弱いものと強いものが認められた。また、わずかに両側で発現する個体が出現した。 3.予定神経板の前方に発現するsoxC遺伝子.HMGファミリーのsox遺伝子を単離した。この遺伝子はCグループに含まれ、中期原腸胚の予定神経板の前半分に発現した。その領域はその後、脳胞に分化すると考えられる。前方のSoxCが発現する領域からはすぐにneurogeneinが発現し、後方の同遺伝子の発現領域からは神経細胞の分化遺伝子が発現する。 4.初期胚に発現するT-box遺伝子.初期原腸胚由来のcDNAライブラリーより、5種類のT-box遺伝子を確認した。それらはTbrain/eomesodermin (Tbr/eomes),brachyury2,tbx2/3,tbx15/18/22および、これまで知られていないtbx2/3/4/5である。得られたクローンの95%はTbr/eomesであった。Tbx2/3/4/5は早期原腸胚の原口縁に発現を開始して、原腸後方、神経腸管周辺、及び後端の表皮で発現が継続する。表皮の発現部位では細胞は肥厚して尾鰭の分化が起こる。
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