慢性痛に悩まされている高齢者の割合はかなり高い。痛みは種々の精神的・身体的二次的障害をも引き起こすので、高齢者の痛みの慢性痛への移行の予防や適切な治療は重要な課題である。痛みの機構に於ける加齢変化、特に高齢になっての変化については、主に精神物理学的方法を用いて研究されてきた。それらによると、高齢になっても若者に比べて痛みの閾値はやや低下する程度に止まるか、ほとんど変化しない。従って、痛みの機構は年齢の影響をほとんど受けず、高齢者に慢性痛が多いのは痛みを引き起こす原因疾患が増加するためと考えられてきた。しかし、実験動物を用いての研究では、痛みの機構が年齢により変化していることを窺わせる報告がこれまでにもなされている。最近では、放射熱刺激後に誘発される足嘗め現象が高齢ラットでは若いラットに比べて有意に低くしか誘発されず、高齢ラットでは痛みの閾値が低下していることを示唆している。また、脊髄後角の痛み受容ニューロンの末梢の痛み刺激に対する反応や自発発射放電の頻度が若いラットのニューロンに比べて有意に高いと報告されている。従って痛覚系に於いても、変性とこれを代償する様な変化が起こっている可能性がある。痛みの神経系の可塑性変化が慢性痛や神経原性疼痛の発症機講に深く関わっているとされる。Wind-up現象は活動依存性の可塑性変化の一種で、本研究では、このWind-up現象に注目し、その加齢変化について検討した。 この結果、高齢ラットではこのwind-up現象が起こりやすい状態にあること、これには下行性疼痛抑制系の機能不全が関与していることが示された、更に、選択的セロトニン再取り込み抑制薬であるフルボキサミンが高齢ラットのwind-up現象を起こり難くすることが分かった。これは高齢者の慢性痛の予防に役立つに役立つ可能性とその機序を示すものである。
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