研究概要 |
医用材料として使用する際には固体フィルムとして用いる必要があるが,一般に高温下で繭を煮て得たセリシンは数万以下の分子量を有しているといわれており,固体膜は極めて脆い物である.本研究では,この改善策を中心にした.二つの方法の検討を行ない得られた試料につき力学物性と構造との関係,表面物性と細胞増殖性との関係につき検討した. 一つには,セリシンを低重合度で低ケン化度のポリビニルアルコール(PVA)と混合・射出成型する事により充分に実用性のあるフィルムが成型できることを明らかにした.この理由はPVAが主に非晶部においてセリシンと相互作用を起こしているためであることを明らかにした. 二つには,高分子量のセリシン試料を得る方法を検討した.新たに育種されたほとんどがセリシンからなるセリシン蚕を用いた高分子量セリシン試料(セリシン-S)を作成し,含水状態においてゴム弾性を示す強靭な物である事が明らかになった.通常の繭から100℃で抽出した高分子量セリシン膜(セリシン-B)と上記のセリシン膜の接触角は31°と70°であり,ゼータ電位は両者ともマイナスでアニオン性を示した. 細胞増殖性をマウス929繊維芽細胞を用い検討した結果,セリシン-Sが良好な増殖性を示すことがわかった.これは表面のアニオン性よりも接触角,すなわちセリシン膜へのマウス929繊維芽細胞の増殖性には細胞の濡れ性が重要な因子である事を意味している. 尚,セリシン蚕セリシンより得られた高分子量セリシンの含水ゲル膜は水に溶解し難い事が期待されたが,人間の体温付近の38℃でセリシン膜の溶出率の時間依存性について調べたところ,1日までに急激な溶出があり,溶出しなくさせるには5日間膨潤する必要があることが分かった.5日間膨潤後のセリシン含水ゲル膜は強度・伸度ともに大幅に低下したが,増殖基材としては使用可能であることが判明した.
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