研究概要 |
MRIの超伝導マグネット用の線材としては高い超伝導転位温度T_cをもった物質が望まれている。我々は,その線材の候補となる物質として酸化物超伝導体が適切であると考え,現在までに報告されている物質を越える優れた超伝導特性を備えた新しい酸化物超伝導体の合成に関する基礎研究を行ってきた。 初年度であるH14年度には,ホールのドーピング等の処理無しで高いT_cを示すRu系の酸化物超伝導体群に着目し,この物質群と同じRu-Oブロック層をもつ新物質を探索した。その結果,Ru-Sr-Ln(Ce)-Cu-O系(Ln=Sm, Eu, Gd)で超伝導を示すRu系1232相の合成に世界で初めて成功し論文とした。この物質は,RuO層に由来する強磁性をも示す。この物質の場合,Lnのイオン半径が小さくなるにつれて結晶の格子定数も小さくなるが,T_cはそれに反して増大し,LnをGdとした場合に最大となることが明らかとなった。 H15年度は,この格子定数とT_cとの相関に着目し,Ru-Sr-Gd(Ce)-Cu-O系1232相のRuをイオン半径の大きなNbで置換する実験を行った。その結果,置換量の増加とともに格子定数が増大し,逆にT_cは低下するという事実を発見し論文とした。さらにこのRu-Sr-Gd(Ce)-Cu-O系の1232相でGdを同じ価数でイオン半径がGdより小さなDy, Hoと大きなSmで部分置換した試料をそれぞれ作製しT_cの変化を調べた。その結果,予想通りGdよりイオン半径が小さなDy, Hoを部分置換した試料のT_cは増大しするという実験事実を得た。これは,超伝導CuO_2面を含むペロフスカイトブロックと例えば螢石型ブロックとが積層するとき,それらの間の整合性に由来するストレスが,その物質のT_cの高低を左右する要因の一つであることを示唆する重要な発見であり,現在論文の作成中である。またBi-Sr-La-Cu-O系ではSr^<2+>とLa3^+のイオン半径がほぼ等しいために2212相は作製できないとされていたが,BiをPbで置換することにより同相の合成に初めて成功し,論文とした。これは,構成元素のイオン半径の制御で意図する相の作製が可能となるという重要な発見である。
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