研究概要 |
<in vivo実験>実験動物として子犬(ビーグル犬、約10kg)を用い、腸骨より骨髄穿刺を行い骨髄液を5-10ml採取した。フィルターにより血球細胞のみに濾過した後、生分解性ポリマーの一弁つきの肺動脈弁(10X 20mm)に接着播種した。事前に生分解性ポリマーは細胞接着分子であるフィブロネクチンで37℃、約1時間インキュベートすることでポリマー基質にコートした。骨髄細胞播種後はさらに約1時間37℃でインキュベートを行った。細胞を採取した同一動物を全身麻酔下に左開胸し、人工心肺による体外循環をもちいて肺動脈弁を置換した。コントロール実験として組織断片を播種しないポリマーシートのみの移植も行った。移植3-12ヶ月後に作成された組織に対して生化学的、生力学的、免疫組織学的検討を行う予定である。生化学検査として、組織中コラーゲン、エラスチン、カルシウム濃度の測定を行い、インストロン張力検査機を用いて作成された組織の最大張力を測定し自己の同じ部位の組織と比較検討する。組織学的には免疫染色の手法を用いて内皮細胞の指標である第八因子を染色すると共に細胞間隙の間質蛋白質を染色し自己組織と比較検討する。同種細胞(allogenic)は拒絶反応の因子を排除できないため、細胞は全て自己(autologous)細胞を用いている。 <ヒト細胞のin vitro実験> 骨髄細胞を用いてポリマー上での増殖能、ポリマーへの接着性、成長因子の影響等の分子生物学的研究をin vitroで行った。 2.臨床応用 我々は従来の組織工学的研究に基づき、東京女子医科大学倫理委員会の承認、患者の同意のもとで以下の方法で実際に数例の臨床症例を経験した。 段階的根治手術が予想される初回姑息手術時、または一期的根治手術時において、10mlの骨髄細胞を完全清潔下に採取し、直ちに細胞接着蛋白(フィブロネクチン)でコーティングされた生分解性ポリマーの一弁つきの肺動脈弁(10X 20mm)に播種接着させ、組織培養液中に浸漬し、手術室内の細胞培養室にて約1時間37℃でインキュベートを行った。細胞培養液はRPMI(Sigma Chemicals, St. Louis, MO)及び1% GPS(29.2mg/mL L-glutamine, 10,000 units/mL penicillin G sodium, and 10,000 g/mL streptomycin, GIBCO BRL-Life Technologies, grand island, NY) VEGF(Vascular Endothelial Cell Growth Factor) FGF(fibroblast growth factor) HGF(hepatic growth factor)を添加したDulbecco's Modified Eagle Medium (GIBCO BRL-Life Technologies, grand island, NY)を使用した。移植術後約1ヶ月後に、心臓カテーテル、造影検査、心臓超音波検査を行いフォローアップは6ヶ月毎に心臓超音波検査を用いて形態学的検索及び組織過形成の有無等を経過観察している。術後遠隔期にも心臓超音波検査を施行する。再手術時に肺動脈弁移植部の組織片を客観的に評価した後、小組織を採取し、人工肺動脈弁組織と自己組織弁を生化学的、生力学的、免疫組織学的に比較検討する予定である。
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