研究概要 |
耐久性のある合成高分子材料を表面修飾することによって,高度な抗凝血性を示す新規な材料の開発を目的に,1.生体の異物認識の回避,2.血液凝固因子の阻害,3.血栓線溶系を活性化する両性イオン構造のポリマー材料の開発とその機能評価に関する研究を行い,以下の成果を得た. 1散漫ヒドロゲル層を形成による生体親和性材料の開発:両性イオン構造をもつ3種ポリマーのpoly(O-methacryloyl-L-serine)[poly(SerMA)]poly(N^α-methacrylamide-L-lysine)[poly(α-LysMA)],poly(N^ε-methacryl amide-L-lysine)[poly(ε-LysMA)]を合成し、血漿タンパク質との相互作用について,共鳴ミラー法を用いる生体分子間相互作用及び蛍光分光法を用いて検討した結果,これらポリマーと血漿タンパク質アルブミン(Alb),γ-グロブリン(Glo),フィブリノーゲン(Fib)との相互作用が弱いことを認めた.また,poly(SerMA)]およびpoly(ε-LysMA)はAlbを変性することなく吸着させ,血中Albの自発的コーティングによって生体親和性を発現することが示唆された. 2.凝固因子トロンビンの活性を阻する材料の開発:抗凝血タンパク質ヒルジンはカルボキシルアニオンが連続するセグメントをもち、トロンビンの塩基性セグメントと特異的な相互作用によって抗凝血性を発現する。poly(SerMA)とアニオン性セグメントととしてのメタクリル酸とのコポリマーがトロンビンの活性を非競合的に阻害することを酵素反応速度論的に示した.またpoly(α-LysMA)にもトロンビン阻害を認めた. 3.線溶因子プラスミノーゲン結合性および線溶活性を促進する材料の開発:プラスミノーゲン(Plg)は両性イオン構造α-Lysineと特異的に相互作用する.生体分子間相互作用解析から,.poly(α-LysMA)にPlgとの強い相互作用を認めた.また,poly(α-LysMA)は血漿タンパク質Alb, Glo, Fibにない相互作用を組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)にも認めた.poly(α-LysMA)はPlg/t-PAによるフィブリンの分解を促進することが分かった.ボリマーはいずれもArプラズマ処理/ポストグラフト重合によって表面処理が可能であった.表面にpoly(α-LysMA)をグラフトしたポリエチレンテレフタレート(PET)のウサギ全血を利用した体外循環回路での抗凝血性は未処理よりも良好であった.
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