研究概要 |
藤井研究室で開発した毛髪からの効率的なタンパク質抽出方法(信大法;Biol.Pharm.Bull.,2002)を基盤技術として、抽出蛋白質のフィルムとファイバーの作製方法の開発を主なテーマとし、これに加え、羊毛への適用と損傷毛髪の分子診断といった研究を展開した。 ・フィルム:変成剤と組み合わせて簡便なフィルムを形成させるプレキャスト法とポストキャスト法を開発して、毛髪から、短時間でタンパク質溶液さらにフィルムへと状態変化させられることを明らかとした。この系に、アルカリホスファターゼの導入に成功し、併せて論文とした(Biol.Pharm.Bull.,2004)。また、フィルムが生分解性を有すことを調べた(高分子論文集、2003)。これらのフィルムは、機械的な物性には乏しいため、実用的な使用には不向きであった。そこで試行錯誤の末、柔軟性に優れ、透明性の高いフィルム作製に成功し、ソフト・ポストキャスト法と名付けた。この微細形態観察、性質分析と合わせて論文にまとめ投稿中である。 ・ファイバー:毛髪蛋白質自体を、元の髪のようなファイバーとすることは困難であるため、2つのアプローチをとった。ひとつは、既存の布に蛋白質を付加するコーティングファイバーであり、プレキャスト法を応用して綿布を材料として作製する方法を開発した(高分子論文集,2003)。次に、天然の高分子多糖の中で、ポリカチオンのキトサンとポリアニオンのジェラン水溶液を使用して形成されるポリイオンコンプレックス(PIC)ファイバーの系へ毛髪蛋白質の導入を試み、成功した。つまり、毛髪蛋白質入り天然PICファイバーの形成に成功しており、作製方法の確立、形態観察、機械的物性を現在検討している。 ・信大法の有用性を羊毛に適用した(高分子論文集、2003)。 ・ブリーチ処理による頭髪損傷の分子診断法への適用した(感性工学研究論文集,2004)。 本科学研究費補助金のサポートにより、実用可能な物性を備えたフィルムとファイバーの作製手法の開発に結びつき、個人対応型の生体被覆材、医用材料、医薬品基材、高機能繊維、化粧品基材の創出へと発展してきている。
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