研究概要 |
ストレス脆弱性が気分障害の発病要因とされ、かつ、慢性化、難治化の背景にストレス感受性の昴進が関与すると推察されている(Rodgers B,1997; Post RM,1992)。しかし、過去のストレスを客観的に正しく認定することは困難である。人の臼歯の歯冠部エナメル質は歯の発達期(胎生期-14歳頃)に被った10日以内のストレスによって活性が低下し、線上の痕跡(Wilson band)として認められる(Goodman A & Rose JC,1990)。気分障害の難治化を防ぐためにこのStress Ringsを手がかりにして、その病態を探る必要がある。私達はこのストレス線(Pathological Stressline, PSL)を指標として、気分障害のストレス脆弱性の形成年齢を検索した。自治医科大学関連精神病院や本研究の協力病院に入院中の慢性の気分障害6例(男性4例,女性2例,平均年齢35.5歳)を対象として、統合失調症15例(男6例,女9例,平均年齢39.8歳)と正常対照群14例(男3例,女11例,平均34.6歳)と比較、検討した。PSLの発現は正常対照群が68%、分裂病群が82%であった。PSLの本数は気分障害群が2.8+2.1本、正常対照群が1.3+1.5本で有意差がなかったが、PSLのスコアーは気分障害群が4.2+3.8、対照群が1.6+1.4で気分障害群の方が有意に高値であった。PSLのスコアーを9-13.4歳まで半年毎に区分して比較すると、気分障害群は10.5歳にピークがあり、10.5歳と13歳で正常対照群よりも有意に高かった(P=0.05-0.0002)。気分障害群と統合失調症群との間にはこれらの項目で有意差はなかった。これらの結果から、慢性の気分障害群は10.5歳と13.0歳にストレスにさらされていることが示唆されたが、統合失調症群よりは軽微であることがうかがわれた。
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