研究概要 |
前年度では、組織における反社会的行動の加害者について心理学的な視点から検討したが、むしろ被害にあった人々の心理学的・行動的影響についても検討する必要性を痛感させられた。 そこで本年度の当該研究の目的は、組織における反社会的行動による被害(これを職場の迫害(workplace victimization)とよぶ)を測定する尺度を開発し、その尺度の得点を規定する要因について検討することであった。 本年度の研究成果は、以下の3点に要約される。1.職場の迫害に関する先行研究を調査し、具体的な組織における反社会的行動による被害についての事例を収集した。2.1で収集された行動をもとに、24項目からなる「日本版職場の迫害尺度」を作成し、この尺度とそれに関連すると予想される他の特性ならびに行動についての測定項目を掲載した調査票を作成した。3.調査を実施し、調査結果の分析を行った。調査は調査専門企業へ委託した。調査は以下のように行われた:(1)調査会社のホームページ(HP)上で、調査回答登録者約20,000名に対して調査票の回答を依頼した。(2)回答を承諾した500名がHP上に掲載された調査票に回答した。(3)回答したデータを調査会社が回収し、コーディング作業を施して(研究代表者に)返送した。 分析は現在も進行中であるが、調査結果の概要は以下のとおりである:(1)職場の迫害尺度を構成する項目を因子分析したところ、3因子に集約された。(2)職場の迫害を経験した回答者は、抑鬱状態や鬱状態になりやすく、職場での引きこもり(きわめて消極的な職務行動)が強まる。最終的には、不定愁訴や神経性胃炎といった身体症状を訴えやすい。(3)個人特性では、視点取得が低い(自分以外の視点でものごとを考えづらい)回答者は、視点取得の高い回答者に比べて職場の迫害経験による心理的影響が大きい。
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