研究概要 |
本年度は、イギリス19世紀「社交界小説」の研究を始めて3年目(最終年度)に当たるゆえ、この課題に関わる基本的資料の整理と研究課題の深化・発展に努めた。玉井あきらと服部典之は、過去3年間にわたって行った、海外出張および国内研究機関・図書館への出張によって収集した資料を整理、検討、読解する作業を行い、これらの作業を通して「社交界小説」の全体的特徴の把握に務め、この特異なジャンルに属する小説のもっている多面的な文学的・文化的意味の考察を行った。 「社交界小説」を研究するに当たって最大の問題点として、今日の日本においてはこの小説作品の原典を入手するのが極めて困難であることが指摘できるが、これは、この派の小説の中から主要な作品を選別・編集した上で、Regency Dandyism and the Fashionable Novelと題して復刻・出版することにより解決することができた。まず第1部として、R.P.Ward, Tremaine, T.H.Lister, Granby, B.Disraeli, Vivian Grey, M.S.Stanbope, Almack'sからなる4作品を復刻し、続いて第2部として、B.Lytton, Pelham, C.G.Gore, Cecil, T.E.Hook, Sayings and Doingsからなる3作品を復刻した。これにあわせて、第3部「初期研究文献」として、「社交界小説」とこの小説の舞台・背景として描かれる摂政時代(1811-20)の文化状況を理解・研究するには必須のものと考えられる書物、すなわちW.Jesse, The Life of G.Brummell, C.S.Bury, The Diary of a Lady-in-Waiting, B.d'Aurevilly, The Anatomy of Dandyism, M.W.Rosa, The Silver-Fork Schoolからなる4点を復刻した。 さらに、これらの「社交界小説」を広く一般に理解してもらうために、この復刻版に「別冊解説」を添付し、玉井あきらは論考「ファッショナブル・ノヴェルの世界」を寄稿した。
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